LTVとは?

LTVとは?顧客との長期的な関係が生み出す価値


LTVとは、Life Time Value(ライフ タイム バリュー)の略で、一人の顧客が商品・サービスに対して支払った総額のことです。

近年、市場の成熟化や競争激化により新規顧客獲得コストが増大していることや、サブスクリプションモデルのような継続的な関係性が重視されるビジネスが増えてきたことなどから、LTVはマーケティング戦略において非常に重要な指標として注目されています。

商品・サービスの成長は、新規顧客をターゲットにするだけでなく、リピーターを増やすことが大切です。

LTVの歴史


LTVは1990年代頃から顧客価値の定量的な計測のためにマーケティングの世界で生まれたとされています。

LTVが重要視される理由


LTVが注目される背景には、主に以下のような理由があります。

新規顧客獲得コストの高騰: 一般的に、新規顧客を獲得するコストは、既存顧客を維持するコストよりも高いと言われています(「1:5の法則」など)。そのため、既存顧客に長く製品やサービスを利用してもらい、LTVを高めることが収益性向上に繋がります。
既存顧客維持の重要性: 顧客ロイヤルティを高め、既存顧客との良好な関係を長期的に維持することで、安定的な収益基盤を築くことができます。LTVの向上は、まさにこの既存顧客との関係性強化の結果と言えます。
サブスクリプションモデルの普及: 月額課金制などのサブスクリプション型サービスでは、顧客にいかに長く継続してもらうかが収益を左右するため、LTVが事業の健全性を示す重要なKPIとなります。
One to Oneマーケティングの進展: 個々の顧客のニーズに合わせたコミュニケーションが重視される中で、LTVを把握することで、顧客セグメントごとに最適なアプローチを行うための判断材料となります。
Cookie規制などによる新規獲得の難化: 近年、プライバシー保護の観点からCookie規制などが進み、従来のターゲティング広告による新規顧客獲得が難しくなる可能性があり、既存顧客からの収益を最大化するLTVの重要性が増しています。

LTVの計算方法・算出式


LTVの計算方法は一つではなく、ビジネスモデルや分析の目的、取得できるデータによっていくつかの算出式が用いられます。以下に代表的な計算式をいくつか紹介します。

基本的な計算式:

LTV = 平均顧客単価 × 平均購買頻度 × 平均継続期間
LTV = 顧客の平均購入単価 × 平均購入回数

収益性を考慮した計算式:

LTV = 顧客の年間取引額 × 収益率 × 顧客の継続年数
LTV = (平均顧客単価 × 購買頻度 × 継続期間) × 平均利益率

コストを考慮した計算式:

LTV = (平均購買単価 × 購買頻度 × 継続購買期間) – (新規獲得費用 + 顧客維持費用) (※この場合、LTVは顧客からもたらされる「総利益」に近い概念になります)

サブスクリプションモデル向けの計算式:

LTV = 顧客の平均月額(または年額)単価 ÷ チャーンレート(解約率)
LTV = 顧客の平均月額(または年額)単価 × 平均顧客寿命(1 ÷ チャーンレート)
LTV = ARPU(Average Revenue Per User:1ユーザーあたりの平均売上) ÷ チャーンレート
粗利率を考慮する場合: LTV = ARPU × 粗利率 ÷ チャーンレート

どの計算式を用いるかは、何をLTVとして捉えたいか(売上ベースか、利益ベースか、コスト控除後かなど)によって変わってきます。自社のビジネスモデルや分析目的に合った計算式を選択することが重要です。

LTVを構成する主要な要素


上記の計算式からも分かるように、LTVの値は主に以下の要素によって構成されます。

平均顧客単価 (Average Purchase Value): 顧客が1回の取引で購入する金額の平均。
購買頻度 (Purchase Frequency): 顧客が一定期間内に購入する回数。
継続期間 (Customer Lifetime): 顧客が企業との取引を継続する期間。
顧客維持率 (Customer Retention Rate): 一定期間後に顧客が継続して利用している割合。チャーンレートの逆数に近い関係です。
チャーンレート (Churn Rate): 顧客がサービスを解約したり、離脱したりする割合。
収益率/粗利率 (Profit Margin): 売上から原価を差し引いた利益の割合。
顧客獲得コスト (CAC: Customer Acquisition Cost): 新規顧客を1人獲得するためにかかった費用。
顧客維持コスト (Customer Retention Cost): 既存顧客を維持するためにかかった費用。

LTVを高めるための施策・方法


LTVを向上させるためには、上記の構成要素を改善していく必要があります。具体的な施策としては以下のようなものが挙げられます。

1.平均顧客単価を上げる

アップセル: より高価格帯の上位モデルやプランへの移行を促す。
クロスセル: 関連商品やオプションサービスを提案し、合わせ買いを促す。
価格戦略の見直し: 製品・サービスの価値に見合った適切な価格設定を行う。

2.購買頻度を上げる

定期的な情報発信: メールマガジンやSNSなどで新商品情報、キャンペーン情報、役立つ情報などを提供し、再購入のきっかけを作る。
リピート購入促進策: ポイントプログラム、リピーター限定割引、次回購入クーポンの発行などを行う。
利用促進のためのコンテンツ提供: 製品の活用方法や楽しみ方を提案し、利用頻度を高める。

3.継続期間を延ばす(顧客維持率を高める/チャーンレートを下げる)

顧客満足度の向上: 製品・サービスの品質向上、使いやすさの改善、優れた顧客サポートの提供などにより、顧客の満足度を高める。
顧客ロイヤルティプログラムの実施: 会員ランク制度、長期利用者への特典提供などを行い、顧客の愛着や信頼感を醸成する。
パーソナライズされたコミュニケーション: 顧客の属性や購買履歴、行動履歴に基づいて、個々のニーズに合った情報や提案を行う。
解約予兆の検知と対策: 解約しそうな顧客の行動パターンを分析し、事前にフォローアップを行う。
コミュニティの形成: 顧客同士が交流できるオンライン・オフラインのコミュニティを運営し、ブランドへの帰属意識を高める。

4.顧客獲得コスト・維持コストの最適化

より費用対効果の高いチャネルで新規顧客を獲得する。
マーケティングオートメーションなどを活用し、顧客維持活動を効率化する。

LTVの活用シーンとメリット


LTVを把握し分析することで、企業は以下のようなメリットを得て、様々なビジネスシーンで活用できます。

収益の安定化と予測: 既存顧客からの継続的な収益を見込めるため、事業の安定性が増し、将来の収益予測の精度も高まります。

マーケティング投資の判断基準

各施策のROI(投資対効果)をLTVと比較することで、投資の妥当性を判断できます。
LTVの高い顧客セグメントを特定し、その層へのマーケティング予算を重点的に配分できます。
顧客セグメント別の戦略立案: LTVの値や構成要素に基づいて顧客をセグメント化し、それぞれのセグメントに最適化されたアプローチ(製品、価格、コミュニケーションなど)を展開できます。
適切な顧客獲得コスト(CAC)の設定: LTVを把握することで、赤字にならない顧客獲得コストの上限(限界CPA)を設定できます。一般的に、LTV > CAC(理想的には LTVがCACの3倍以上)であることが事業の健全性の一つの目安とされます。
製品・サービスの改善: LTVが低い顧客層の課題やニーズを分析することで、製品やサービスの改善点を発見し、顧客満足度向上に繋げることができます。
優良顧客の特定と育成: LTVの高い優良顧客の特徴を分析し、同様の顧客を育成するための施策を検討できます。
経営判断の指標: 事業の収益性や持続可能性を評価するための重要な経営指標となります。

LTVと関連指標(CACとの関係:ユニットエコノミクス)


LTVを語る上で欠かせないのが**CAC(Customer Acquisition Cost:顧客獲得コスト)**です。CACは、新規顧客を1人獲得するためにかかった費用の総額を指します。

LTVとCACの関係性は、ビジネスの健全性や成長性を測る上で非常に重要です。この2つの指標を用いて算出されるのが**「ユニットエコノミクス」**です。

ユニットエコノミクス = LTV ÷ CAC

ユニットエコノミクスが「1」を上回っていれば、顧客1人あたりで利益が出ている状態を意味し、「1」を下回っていれば赤字であることを示します。一般的に、SaaSビジネスなどではユニットエコノミクスが「3」以上であることが望ましいとされています。この指標を見ることで、事業への投資が適切かどうか、持続可能な成長が見込めるかなどを判断できます。

LTVを活用する上での注意点・限界


LTVは非常に有用な指標ですが、活用する際には以下の点に注意が必要です。

計算方法の選択と一貫性: 前述の通り、LTVの計算方法は複数存在します。自社のビジネスモデルや目的に合った計算方法を選択し、社内で一貫して使用することが重要です。
データの正確性と収集: 正確なLTVを算出するためには、顧客データ(購買履歴、行動履歴、属性情報など)を正確に収集・管理する必要があります。
短期的な視点とのバランス: LTVは長期的な視点での指標ですが、短期的な売上や利益も無視できません。両者のバランスを考慮した経営判断が求められます。
LTVが全てではない: LTVが高い顧客が必ずしもブランドへのロイヤルティが高いとは限りません(例:他に選択肢がないため仕方なく利用している場合など)。顧客満足度など、他の指標と合わせて多角的に顧客を理解することが大切です。
市場や環境の変化への対応: 市場の変化、競合の出現、顧客ニーズの変化などにより、LTVの前提条件が変わる可能性があります。定期的な見直しと分析が必要です。
コスト構造の変動: 顧客獲得コストや維持コストも変動するため、LTVの評価もそれに応じて見直す必要があります。

顧客ロイヤルティ戦略


LTVを指標として計測することで、顧客価値の最大化を図ることができます。
LTVが高ければ高いほどリピート率が高いということであり、リピート率を上げることが商品・サービスの成長につながります。

LTVは、単なる数値として捉えるだけでなく、その背景にある顧客行動や心理を理解し、顧客との長期的な関係構築を目指すための羅針盤として活用することが、ビジネスの持続的な成長に繋がります。

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